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感性とパッケージデザイン

1. 感性とパッケージデザイン
 感性という言葉がデザインの世界で流行語のように使われた時代があった。1980年代から1990年にかけてのことである。バブル期の真っ只中、デザインも実用から生活の豊かさを目指した時代である。感性という言葉が何か気取って、いわゆるセンスのいい人たちの口から、周囲の人たちと何か区別したような優越感の中で使われていたように思う。この稿は、1987年「包装技術」誌上で私が記した「感性とパッケージデザイン」を土台にして、今(2008年)、それを補筆した。
 現在、「感性工学」、経済産業省の「感性価値創造のイニシアティブ」など感性という言葉も、学問的雰囲気の中で使われるようになり、それなりに、またデザインの世界でも、単なる気持ちを伝える言葉から一定の価値ある概念的言葉になったように思える。しかし、デザインの実務者として私は、感性という言葉は、デザインの現場では、昔の使われ方のほうが、創造的意味合いがあるという点で、好きである。そこで、1987年に書いた稿を、2008年のデザイン事情を考慮に入れて、「感性」について考えてみる。現場のデザイナーの考えであり、学術論文ではないので矛盾点が多く出てくることがあるかもしれないが、その場合は皆さんの考えを補填、修正していただければ幸いである。

1.1 感性という言葉の使われ方
 1986年季刊「消費と流通」34号で感性消費に関して特集を組んでいる。そこでマスコミ関係者、経営者の「感性」についての考え方が掲載されている。時代が経ているので私自身、再考したのだが、原文のままのほうが、真意が伝えられると思いそのままにし、私の今の解説を付け加えることにする。

 「感性」とは時代潮流と生活者の価値変化を嗅ぎ分ける力である。(広告代理店部長)
生活者が求めているモノは変化する。その変化を敏感に察知して広告作りに反映させ、クライアントに喜んでもらえということか、いかにも広告代理店の部長の解釈である。感性は価値変化に気づく人間の能力だという考え方だ。
 「感性」は「理性」の対極に位置するのではなく、「理性」を超えたところに存在する。(百貨店社長)
感性は直感的なものに対して、理性は自分の考えというフィルターを通して冷静に物を判断する、
一般的に感性よりも、上位のものと考えられている。この感性の解釈は理性を超えて、直感的なものの考え方が、百貨店ビジネスでは大切だといっているのだろう。理性的判断では優等生の解釈になり、ビジネスの差別化が図れない。私はこの解釈はデザインの世界でも大切だと思う。デザインは生活者の要望を反映してクリエートするが、一歩突っ込んで考えると、デザイナーが自分の感性でデザインして、生活者の気づいていないセンスを提供することが、デザイナーの使命ではないか、社会はデザイナーにこれも求めているように、私には思える。
 「感性」という言葉は通常、知性や論理に対置するものとして使われているが、そうではないと思う。言うならば「感性的知性」とも言うべき形質である。(コミュニケーション研究所所長)
直感で得たものを客観的根拠が無いのを承知で、それを越えて、新しい認識として活用しようというのが感性的知性という概念だと解釈できる。理屈では理解できないが、感性に従って行動を決定する。いわゆる、数値を基礎にしたマーケティングの世界でなく、昔の卓越した商人の世界である。感性的知性が、斬新な企画を生んでいくように思う。根拠が無いことが、差別化を生み出し、今までに無い斬新さを演出る。しかし、直観力をいかに養うか、いかに理解するかの問題は残る。
 「感性」といえば、技術とは相反する性格のものと考えられがちであるが、そうではなく、先端技術とも深いかかわりを持っているとの認識がきわめて重要である。(総合研究所産業グループ術研究室室長)
感性というと美術、音楽などの芸術の分野の言葉に思えるが、技術の世界でも「感性」というものはきわめて重要で、理性を超えた直感の世界の感性が、特に先端技術では必要とされている。技術の世界のエキスパートの言葉として興味深いものである。新しいものの開発には、理論で先が見えるものより、ひらめきによる成果が偉大な発展をもたらすということか、「感性」がもたらす科学技術の発展を楽しみにしたい。発明・発見の世界で、失敗が大発見の切っ掛けになったという話はよく言われる。先端技術で「感性」が重要ということは、これに通じるところがあるように思う。
 企業に要請されるところの「感性」とは、時代の動きを複合的・複眼的に察知する鋭い精神である。(トイレタリー商品メーカー社長)
あらゆる社会の動き、変化を、肌身に感じる、人間本来の能力であると、私はこれを解釈した。「感性」を人間の能力の一つに捉えたことに興味を引かれる。例えば、周囲の雰囲気、社会の雰囲気を、敏感に感じ、次の行動のヒントにする。製品開発のヒントにして、他に先んじてヒット商品を生み出す。そういう能力を「感性」と考えると、ビジネスの世界でも「感性」は成功の一つの要因になる。
 「感性」とは「感覚」×「感情」で表現される。言うならば身体全体で感じるものであり、理論的に説明のつきにくいものである。(ファッションメーカー社長)
理論的に説明のつきにくいとは、理性を超えた心の中の様子なので言葉で説明できないということか、「感覚」×「感情」は、感じとった心の動きと私は解釈した。何かの刺激で心の中に生じた思いを「感性」と考えているように思える。
 「感性」とは、事物に対して直感的に生じる感覚的な働きである。多くの場合、「好き、嫌い」反応を伴うので、同義的に「好き嫌い感覚」とし、「理性」や「知性」が事物を概念的に、論理的に判断する「良い、悪い」思考と対置する形で用いている。(広告代理店局長)
「好き、嫌い」は、全く個人的な考えに起因するが、「良い、悪い」は、社会的に認知された考えに基づいて生じる考えである。感性の一般論的解釈で面白みに欠ける。
 「サスペンションテクノロジーが感性を刺激する」(マツダRX-7のコピー)
このコピーは、「感性」の意味を理解する上で非常に参考になる文だと思う。何かが、「感性」を刺激する、感性を人間の持っている能力の一つと考えている。五感ではなく、心の動き、感情部分の人間の能力と解釈できる。心の動きなので漠然として物理的、生理的に捉えられないが、何かに感じ入る、感心する力が人間の中にある。美しいものを見たとき、科学上の発見をしたとき、心地よい音楽・音響を聴いたとき、風合いの良い生地に触れたとき、至極の香りに包まれたとき、あらゆる事象の中で、自分自身が感じ入ることがある、これが「感性」だ。この解釈は、芸術、技術、科学、ビジネスなど広範な分野で活用できる「感性」の解釈である。
 「その感性とスポーツマインドをクラブづくりに生かします」(ゴルフクラブのコピー)
その感性とは、有名プロゴルファーのクラブに対しての、体感的感覚、そのゴルファーが、良いなと思っているクラブの感触をいっているのであろう。その感性という短い文が、その背後にある大きな世界を彷彿させる。感性の意味を巧みに使っている。
 「感性を磨くことも大切」(会話の中)
感性は磨くことができる、トレーニングで上達することを前提に、この言葉は使われている。たとえば、自分のビジネスの世界で、役に立つ現象に出会ったときいち早く、何かに役立つと感じ取る能力だ。これは一般的にオンザジョブトレーニングで養われる。感性はトレーニングで養われることを認識しておくべきだ。
 「それぞれの感性を生かした暮らし」(会話の中)
家族、夫婦などそれぞれの趣味などを侵害することなく調和の取れた生活をする。またリタイアー後の田舎暮らし、それぞれの心の中にある好き志向を満足した暮らし。心の中にある好き志向が感性と解釈できる。
 「大人の感性を刺激する曲線美」(会話の中)
艶色の感性にもとれるが、たとえば、落ち着いた大人が好むヨーロッパ車の洗練された曲線美が良いなと解釈できる。大人が良いなと思う気持ちを感性と言っている。
「好きとか嫌いとかの感性が非常に価値を持つ時代になってきた」(会話の中)
善悪という理性的なことよりも、生活の嗜好を優先的に考える好き嫌い感覚が大切になってきているということか、反論には、環境、安全問題を生活の中にも取り入れることが必要という考え方が浮上する。そして環境、安全を考えつくした生活態度を感性的生活というような表現をするようになる。
 「豊かな感性を感じさせる作品」(会話の中)
世の中の瑣末な事象までを心に留め、人の気がつかない事柄を巧みに表現して、社会にアピールした作品と解釈できる。
 「自分の感性にあった生き方をする」(会話の中)
価値観を金銭に置かない、自分の良いなという生き方をする。自分に正直な感性の反応に従った生活。
 「アンテナショップを開いたのも、感性に磨きをかけたいという社長の意思の表れだった」(会話の中)
感性はいろいろな事柄を経験することで成長する。感性は先天的な能力だが、経験、トレーニングでブラシアップできる。ビジネスの世界で、不得意分野でもこのような方法を取り入れ、マイナス点を克服することも可能になる。

 感性の定義、解釈、使われ方は、様々である。しかし「感性」は、人間の普遍的な能力と考えてよさそうである。好き嫌いという心の中の問題だが、これはまた経験、トレーニングである程度訓練できるのだろう。

1.2 「感性」という言葉の意味
 「感性」を心理学用語として解釈すると、「刺激に反応して感覚を生じる能力」ということになる。たとえば、あるモノを見て、視覚を刺激されて、美しいとかみにくいと感じる能力のことである。またある行為に対して、好きだとか嫌いだとかを感じる能力も「感性」ということになる。
 哲学用語では「印象を受け入れる能力」ということになる。これもまたうつくしいものをたとえば見たとき、美しいと感じる気持ちのことである。心理学用語、哲学用語のいずれの場合も、ある対象に対して、ある個人が自分の意識の中で何かを判断する能力、または感じる能力のことをいているといえないだろうか。「感性」をあまり広義に解釈してしまうと、前項に示したマスコミ関係者、経営者諸氏の何人かのようにその意味が他人に理解できなくなってしまうので注意しなければいけない。そこで私は、ごく一般的な簡単な言葉で「感性」という意味が理解できるように考えてみることにする。
 実は「感性」という言葉の意味をはっきり、もちろん自分で「感性」という言葉を使っていながら、理解していない、また自分なりに定義していない時期があった。流行語ということでなんとなく解ったつもりで使っていた。ある時、商品企画会議をしている最中に「感性」とは何かということになり、会議をそっちのけで感性論をケンケンゴウゴウと戦わしたことがあったが、各人、何となく解っているようであるが、説得力のある説明が出来る者は誰もいなかった経験がある。そこで「感性」とは何か、辞書で調べたり、関連の本を読んだりしたが、はっきり理解できないままになっていたとき、マツダRX-7のコピー「サスペンションテクノロジーが感性を刺激する」を見て、かなりはっきり「感性」とは何か理解できた記憶がある。すなわち、何かをいいなと思う気持ちが「感性」なのだと悟ったのである。サスペンションテクノロジーという言葉が、いかにハイテクノロジーを連想させ、それがこのコピーの受け手にいいなと思う気持ち、「感性」を刺激しているということなのである。
 「感性」とは、何かの刺激を受けて、いいなと思う気持ちである。何かの刺激とは、具体的に、美しいもの、ハイテクノロジーなもの、行為として気に入ってるもの、グットデザインなものなど、実際の商品、ライフスタイル、人生哲学など広範囲なものが考えられる。「感性」はいいなと思う気持ち、人間の内面の意識だけでは理解できない。そこにはいいなと思う気持ちの対象が存在しなければいけないのである。「感性」を考えていくとき、このいいなと思わせる対象と、いいなと思う気持ちの両面から考えていく必要がある。いいなと思わせる対象を感性物、またいいなと思う気持ちを感性心と呼ぶことにすると、感性と感性物、感性心の関係は図1のように考えられる。

図1
  図1

 すなわち感性物によって刺激された感性心がいわゆる一般的に考えられている感性なのである。また感性物とは具体的な物ばかりではなく、抽象的な概念まで含めて考えられる。
 「感性」と商品ということを考えていくと、商品を感性物ととらえて考えていけばよいわけである。感性商品=感性物なのである。商品作りにおける「感性」とは狭義に解釈すれば、感性心を刺激するような商品を作り出すということになる。しかし一概に感性心を刺激するような商品といっても、感性心は各個人の意識の中にあるわけで、なかなか厄介な問題なのである。たとえば、科学的なハイテクノロジーに感性心を刺激される人もいれば、これと対極的な位置にある、伝統的な技術に感性心を刺激される人もいるわけである。では、ここで感性商品とは何かについて考えてみることにする。

1.3 感性商品とは何か
 古い話になるが、ミノルタのα-7000という一眼レフのオートフォーカスカメラが発売され、世界的大ヒット商品になったことがある。ちょうどその頃「感性」という言葉が流行語のように使われ、これぞ感性商品なのだといっていた商品企画者、デザイナーなどが多くいた。それまで感性とは対極的な位置にあった技術を、感性を感じる対象物として考えた最初の出来事であるように思う。それとほぼ同時期にニッカからピュアモルト、フロム・ザ・バレルというそれまでのウィスキーの商品コンセプトと異なったウィスキーが売り出され、これぞウィスキーの感性商品だといわれたこともあった。α-7000は、ハイテクノロジーを駆使し、未来感覚の人たちの感性心を刺激して大ヒット商品になった。またピュアモルト、フロム・ザ・バレルは、純粋にウィスキーの醸造技術をアピールすることによって、本物志向の人たちの感性心を動かし、感性商品としてヒットにつながったのだろう。α-7000はハイテクノロジーが、ピュアモルト、フロム・ザ・バレルは伝統技術が、人の感性心を刺激したことになる。感性商品は、情緒的な側面ばかりではなく、技術的な側面も関係していることが解る。図2は感性商品を技術的な側面から考えた図である。すなわち、技術にかかわる感性商品は、先端のハイテックの中に生まれるかまたは、伝統的技の中に生まれることを示している。オールドテックという言葉は伝統的技を意味する私の造語である。

図2
  図2

 あるかばん製造卸売業の社長が「品質には自信がある。しかし大量生産・大量販売を志向してきたため、感性の面から商品を見ると、どうしても見劣りする」ということを言っている。私なりにこれを解釈すると「大量生産するような必需品としての鞄、まただれでもが使う標準品としての鞄は、安く丈夫に作り大量販売していく能力はあるが、いわゆるデザイン的、ファッション的な鞄になると、どうしても不得意である」ということになる。感覚的な面から見たときの感性商品としての鞄作りに対して自信がないと言っていることになる。ここでの感性商品とは、技術と対極的な位置にあるセンスということを主体に考えた商品のことである。感性商品は、技術面、感覚面どちらから考えても感性商品として成り立つのである。ここで感性商品の特性についてふれておく。
(1)「好き、嫌い」感覚がある。
(2)「品質」が重視されている。
(3)使用者の内面的な満足が追求されている。
(4)商品イメージとしては「楽しい」、「都会的で美しい」、「機能的である」、「面白く話題になり、凝っていて目新しい」などである。
 感性商品は、人間の感性心を刺激するような商品をいうのであるが、もう少し具体的に示すと、感性商品とは、「従来の商品にかなりドラスティックなかたちで新しい属性を追加、または一部の属性をかなりドラスティックに取り除いた商品」ということになる。

1.4 パッケージデザインにおける「感性」
 パッケージデザインにおける「感性」を考えるとき二つの方向があるように思う。第一は感性商品におけるパッケージデザインはどうあるべきか、第二はパッケージ自体が感性を感じさせるパッケージ、またはパッケージデザインとはどういうものか考えることである。
 感性商品におけるパッケージデザインは、その商品の正確な意味を伝える必要がある。商品が感性物として優れたものでも、パッケージ自身と、パッケージデザインがその商品の感性物としての特質を十分に伝えるようなものでない場合、それは感性商品として成り立たない。ニッカのピュアモルト、フロム・ザ・バレルのパッケージを見ると見事にその商品コンセプトをパッケージデザインに再現している。ボトルは、いわゆるケミストボトルとか薬品のビンを連想させ、いかにも純粋さを受け手にアピールしている。ラベルは、ノングラフィックという手法で、タイプの文字を使用し、ラベルを簡素に仕上げている。それだけに内容の伝達度は抜群にいい。パッケージ全体のイメージが商品コンセプトをダイレクトに受け手に伝え、感性商品のパッケージデザインの一つの方向を示している。
このパッケージの類型に西友の無印良品のパッケージがある。無印良品を感性商品として扱うには、異論があると思うが、すべての商品に余分なものを取り除いてしまった点に、新しさと感性商品としての価値があるように思う。α-7000のデザインがそのハイテクノロジーにもかかわらず従来のデザインの枠を脱していない点に不満が残る。
 パッケージ自体が感性を感じさせるものとはどういうものか考えてみる。まず考えられることは、パッケージテクノロジーが未来感覚的なハイテックを思考したパッケージは受け手の感性を刺激することが出来るだろう。またこれとは逆に、経木、竹の皮、和紙など伝統的技を利用したパッケージも受け手の感性を刺激する商品パッケージとして考えられる。これらの商品パッケージは、ローカル商品に多く見られ、優れたパッケージデザインのものが多数ある。
 パッケージデザインにおける「感性」を考える場合、感性商品とは何かを考えたときと同様に、感性パッケージについても、「従来のパッケージデザインにかなりドラスティックなかたちで新しい属性を追加、または一部の属性をやはりドラスティックに取り除いたパッケージデザイン」と考えられないだろうか。いずれにしろパッケージを考える場合、商品の一部としてパッケージデザインを考えていく必要があり、パッケージデザインの感性とは何かについて考えていくにあたっても、商品本体と連携して考える必要がある。

1.5 「感性価値創造イニシアティブ」(第四の価値軸の提案)と感性
 経済産業省は、人口の減少、少子高齢化の状況下にあたっても経済・社会の活力ある発展を目指すために、感性という新たな着眼点からの価値軸の提案を行う「感性価値創造イニシアティブ」
を策定し、2010年までを「感性価値創造イヤー」と定め、感性価値創造の実現に向けた様々な施策を行っていくとしている。従来の価値軸(性能、信頼、価格)に感性軸を加えて新たな着眼点から価値創造を行っていこうということである。
 今なぜ「感性価値創造イニシアティブ」が必要なのか考えてみると、第一に少子化による人口減少に伴う量的需要減少、第二に近隣諸国の追撃が、大きくわが国の産業を襲っていることが挙げられる。そういう局面で競争力を維持・向上させていくために不可欠な差別化やイノベーションの要素を考えると、改めてわが国が得意とする「感性」というキーワードが浮上する。「感性価値イニシアティブ」で定義されている感性価値とは「生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値」ということになっている。機能、信頼、価格を超えた「+αの価値」を生活者に提供し、それに見合う対価を得て、産業の発展を維持していこうという施策が「感性価値イニシアティブ」である。
 日本人は、作り手の手間、こだわりなどに共感し、それに価値を見出す。たとえば、厳選された素材、ものづくりの仕組みや込められた想い、使い手への思いやりなど日本の製品には細部にわたり使い手を意識した作り手のメッセーが込められた製品が多い。しかしその作り手のメッセージもうまく使い手にコミュニケーションしないと価値が見出せない。「感性価値創造イニシアティブ」では、作り手と使い手に「感性」という価値を啓蒙して、それを可視化して経済価値にしようとしている。感性価値の概念は、生活者に近い最終商品だけのものではなく、素材・部品という川上から最終製品という川下までの広がりを持った工業製品全般に、更には農産物や流通、サービス、コンテンツにいたるまで広範に反映されるものである。しかし、優れた技術力、匠の技などを持ちながら、その価値を十分に伝えきれずに、本来の対価を得ていない企業が多いのも事実である。特に中小企業、地方企業が優れた感性製品を作っても、日の目を見ないことが非常に多いことが、私の四十年のデザイナー経験からも言えることである。「感性価値創造イニシアティブ」に期待するところは、中小企業、地方企業の優れた感性製品を見出し、それらを売れるようにすることである。既に述べたように1980年代には大企業、感覚的に先端を行っている企業では感性をキーワードに製品作りを行っていし、現在でも「感性価値創造イニシアティブ」などといわれる前に、当たり前のように「感性」を念頭に置いた製品群を生み出している。「感性価値イニシアティブ」では、中小企業、地方企業の活性化、それに日本のもの作りが得意とする繊細な感性を生かしたワールドワイドな製品を作り出す環境整備を期待する。

1.6 感性工学とデザイン
 感性工学とデザインについて簡単に触れておく。これは私の個人的な考えで、一般的に語られていることと乖離している部分が有るかも知れないがご容赦願いたい。
 感性工学とは、感性工学を唱えた長町教授によれば「人間がある対象について心の中に抱く感性(フィーリングやイメージ)を具体的な形で物理的デザインとして表現するための翻訳システム」と定義している。数値化することや属性として扱うことが困難とされてきた人間の感性を定量的に分析して、色やカタチ、機能といったデザイン要素との関係を明らかにするこということらしい。(広島国際大学感性デザイン学科の説明を参考にした)
 パッケージデザインでは造形的な要素ばかりでなく音、素材感、使い勝手などがデザイン要素として考えられる。たとえば容器の開閉する音は、コスメティック、トイレタリー商品などをデザインするさい、最近特に注意するようになっている。二十数年前、ある女性用トイレタリー商品をデザインするさい開閉時の音を意識したデザインしたことがある。そのときは、単に音がすればいいと考えていたが、最近のコスメティックでは、音の種類なども感性工学にしたがってデザインをしていると聞いて、改めて感性工学のパッケージデザインにおける有用性を認識した経験がある。また使い勝手なども感性工学の手法を取り入れて研究が進んでいると聞く。
 パッケージデザインに感性工学を取り入れることに不安な面もある。感性工学がデザイン要素を定量的に分析することは理解しても、それは今の人間の感覚を分析しているのであって、新しい、今を越えた人間の感性を分析しているのではないということである。最新のデザインは、今を越えたところに存在するのではなかろうか。デザイナーはそれを創造することに喜びを感じているのではないか、感性工学を研究者もそれは気づいているように思う。感性工学がデザインにとって有用ではあるが、感性工学を大きく超えたところに、現在をブレークスルーするデザインが存在することを認識しておく必要がある。

1.7 感性とパッケージデザイン写真説明
 (1)SHISEIDO MEN(写真1)
資生堂の高級男性化粧品、文字だけのシンプルで控えめなデザインだが製品の信頼感を感じさせるデザインになっている。容器の材質、箱の表面処理がいかにも高級品を感じさせ、買い手の感性に訴える。高級製品の感性を訴求したデザイン手法の一つとして参考になるデザインである。高級品のパッケージは、素材感とシンプルなデザインが一般的である。
写真1

(2)きれいのミスと(写真2)
トイレタリー製品は、買い手に対しての訴求、使いやすさなどを考えて、既存製品の延長のデザインになりがちだが、きれいのミストは、既存製品を意識的に越えたデザインになっている。残念なことは、スプレーが既存品を使っているので今一歩感性商品としての訴求に欠ける部分があるが、企画、デザイン担当者の、感性商品にしたいという意向が、デザインを専門としている私には十分に伝わってくる。
写真2


(3)二人静(写真3)
上等な日本砂糖、和三盆の干菓子。筥(まるい箱、本来は竹製)が和風で、中の菓子が和紙で包まれている。いかにも高級干菓子のパッケージで、買い手の感性を刺激する包装になっている。イラスト、手書きロゴが古さを演出して、この上品さが和三盆の干菓子のイメージを的確に伝達している。
写真3

(4)氷結(写真4)
「ダイヤカット缶」は、NASAで高速飛行体の胴体を強化する研究から生まれた世界最高の加工技術といわれている。機能性、省資源性を兼ね備え、その技術が買い手の感性を刺激する、これからの時代にふさわしい容器といえる。デザインも左右に分けた基本レイアウトが新しい。
写真4

(5)Calorie Mate(写真5)
1983年に発売いらい見かけのデザイン変更が無い長寿商品。主たる画面に日本語が無く、下部の細かい英文は、飾り文字で、商品説明よりもデザインの一要素と考えられる。文字と黄色のデザイン要素だけでこれほどの商品訴求した商品はほかにはない。古さを感じないし、機能性の栄養食品であることをズバリと表現したところが、買い手の感性を刺激している。
写真5

(6)カップ ヌードル
1971年発売の長寿商品。単純なデザインだが全体が記号化してインスタントラーメンの最強のブランドになっている。インスタントラーメンの一般的などぎついデザインから比べるとなんとシンプルなことか、これぞインスタントラーメンの感性パッケージデザインといってよい。シズル写真などの要素をドラスティックに排除し、個性的なロゴを大きく扱い、買い手の感性を刺激している。単純だからこそ感性デザインの一様式としての価値がある。
写真6

3.8 まとめ
 「感性」という言葉は、1980年代半ばからデザインの世界でよく使われるようになり、現在は「感性価値創造イニシアティブ」のように国の施策のタイトルになるまで認識されるようにたった。直接的価値から間接的価値へ、心の内にあるものをデザインの世界でも価値の対象にするようになったことは、デザイナーとして喜ばしいことだと思っている。私自身の「感性」の定義は、本文で述べたように感性心、感性物に分けて考えているが、より簡潔に言ってしまえば「良いなと思う気持ち」が感性だと思っている。この感性は単に美しいものばかりでなく、広く技術的なもの、新しいものばかりでなく、古いもの、具体的なものから、抽象的なものまで広範なものが対象になる。
世の中は常に変化し、パッケージまたはパッケージデザインの技術も思考もまた変化している。変化の時代に対処できるまさに「感性」がいま求められている。


参考図書
1) 北村正彦、感性とパッケージデザイン、包装技術、昭和62年10月
2) 季刊 消費と流通 34号、昭和61年
3) 長町三生、感性工学、海文堂
4) 経済産業省ホームページ、感性価値創造イニシアティブについて
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プロフィール

marsdesert

Author:marsdesert
北村正彦
寺島デザイン研究所代表取締役
1945年東京生まれ
東京学芸大学卒業
インダストリアルデザイナー
デザインコンサルタント
オブジェ作家
kitamura@ad.il24.net
090-9156-1709

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